バレエ教室の王子様

Mr.P

P先生は、30代前半(?)のイケメンの男性だ。あるバレエ団に属するプロのダンサーで、私の通うバレエ教室の講師もしている。私のよくいくオープンクラスは、違う先生が教えているのだが、P先生も時々自分の練習のために出席する。

彼が教室に現われると、数人の生徒が見るとはなしに彼を目で追う。私も密かに目の端で彼を見ながら、「今日はラッキー!」と密かに思う。本人は、目立たない黒いタイツと白いシャツといういでたちで、背もあまり高くない(175cm)。しかし、ダンサーらしい筋肉質で細めの体、栗色の髪に茶色の瞳、そしてその顔立ちは王子様のようだ。彼は、周りの人々に挨拶することもなく、伏し目がちにエナジードリンクと荷物を床に置き、一番端の目立たない場所でバーにつく。

彼が動き始めると、その無駄のない美しさに見ほれてしまう。素晴らしいターンアウト、滑らかなポールドブラ(腕の動き)、柔軟な身体、アダージオ(ゆっくりとした動き)でも高くキープされる脚…。バーレッスンでも、すぐ彼が”プロ”だということがわかる。彼はパワフルなダンサーではない。びっくりする回数のピルエット(回転技)はできないし、跳躍も目を見張る高さではない。多分リフトも、少し重めのパートナーは上げられないだろう…。しかし、彼の踊り、姿はとてもチャーミングだ。

彼はシャイな人だ。他のダンサーもそうだが、バレエをやる人は非社交的な傾向があるように思う。教室でも挨拶程度にしかしゃべらない人がほとんどだ。教える時も、踊る時も彼の笑顔はほぼ見られない。いつも少し暗い面持ちで「近寄らないで(というような)」オーラが出ている(ような気がする)。なので、私を含め彼の隠れファンも、ほとんど彼には声がかけられない。

一度意を決して「何歳からバレエをやっているんですか」と訊いてみたことがある。「もの覚えついた時からずっと踊っていた。親がバレエ教師だったから…」とボソッと答えてくれた。残念ながら、話はそこで止まってしまったが、話かければ答えてくれてくれる人なのだとわかった。

バレエの世界は残酷だ。P先生ほどの人(彼はNYの有名なバレエ学校の出身者で、有名なダンサーの師事も受けている)でも地方のバレエ団のソリストが精一杯のようだ。彼は講師役を喜んでやっているようには見えない。「教え」をするのはひとえに生活のためだろう。

でも、普通のバレエ教室で、プロのダンサーのバーやフロアーでの踊りが見られるのは、とても貴重なことだ(バレエ好きなら、お金を払っても見たいようなものかもしれない。)P先生は紛れもなく、教室の「王子様」で、その姿は目の保養、そしてたくさんの生徒の励みになっているのだ。

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